旧帝国海軍:特殊潜航艇「甲標的」の気蓄器
雑誌「丸」(潮書房光人社)の2013年2月号で「秘匿兵器「甲標的」ストーリー」という特集が組まれています。そのトップページに「甲標的の傍らには、特殊潜航艇用の気蓄器(空気ボンベ)が新たに展示された」と写真が載っていました。「これは観に行かなくては」ということで1月19日に見学に出かけてきました。
展示されていた甲標的の気蓄器
甲標的は教育参考館の隣に展示してあります。この甲標的は真珠湾攻撃に実際に参加した5艇のうちの1艇であり、戦後に米海軍により海底から引き上げられ日本に返還されたものです。「古野艇」あるいは「広尾艇」という説がありますが、確定はされていません。
錆止めの塗料によるものでしょうか、橙色のものが新しく展示された甲標的の気蓄器です。隣に説明がありますので記します。
特殊潜航艇「甲標的」気蓄器
この気蓄器(空気ボンベ)は、特殊潜航艇「甲標的」の舵を駆動する空気圧式操舵装置に空気を供給するために艦首部分に装備されていたものである。
艦船の操舵装置は油圧式が一般的であり、潜水艦の旋回を担う縦舵及び仰角を担う横舵の操舵装置も同様であるが、「甲標的」は船体を小さくするための工夫の一つとして、操舵装置を簡素で小型な空気圧式とし、操舵用に気蓄器2基が装備された
しかし、空気式操舵装置は、気蓄器の空気が尽きれば、舵が使用できなくなるという弱点があり、舵を頻繁に使用することが予想された真珠湾攻撃に参加した「甲標的」には推進動力用電池の一部を降ろして操舵用気蓄器5基が増設された。
真珠湾攻撃後、「甲標的」は、行動時間延長のための改良が加えられ、その一つとして、小型ディーゼル・エンジン式発動機の開発、装備に伴い、縦舵の操舵装置のみ(横舵はそのまま)は、空気圧式から電動ポンプ油圧式に変更された。
この気蓄器の目的は説明にあるように舵を駆動するためのものです。甲標的はもともと洋上での短い時間の運用(主力艦決戦の前に母艦から発進し魚雷を放つ)を考えられていたために運動性能が高くありません。この空気圧式の駆動装置は舵が小さい上にスクリューよりも前に舵があったために、旋回圏は最高で400mを超えるものになったとのこと。ちなみに後進もできません。
そんな運動性能の低い甲標的を入り組んだ真珠湾内に侵入させ敵艦を攻撃するという構想は搭乗員たちの討議からでてきたという話もあります(これには異なる考えもあります)。そのためのひとつの対応として操舵用の気蓄器の増設をされたわけですが、結果は真珠湾攻撃の結果が示しているとおりです。
ところで「この展示されている気蓄器は本物なのだろうか?」という疑問が。凹みなどもなくきれいな形をしているので、まさか展示されている甲標的に実際に取り付けられていたものということはないでしょう。案内をしていただいた方に質問してみたのですが、展示に関してはきいているけれどもこの気蓄器がどういった由来のものかはきいていないとのこと。ただ、凹みなどもないことからレプリカではないかと言うことでした。あるいは、別の甲標的に取り付けられていたものかもしれません。確認してみようと思います。
【追記:2013.01.21】
第一術科学校に問い合わせさせていただいたところ、「甲標的の気蓄器は本物です」とご回答をいただきました。お忙しいところありがとうございました。
この江田島旧海軍兵学校の見学、何度かさせていただいていますが今回がもっとも楽しい、感心するものとなりました。それは前述の案内していただいた方のおかげ。自身が幹部候補生として教育を受け、潜水艦に勤務されていたという方なのですが、教育参考館内でそれぞれの展示物に説明される方ははじめてでした。
説明だけではなく、「見学者の方々に一番読んでいただきたいのが特攻でなくなった方々の遺書」とそこでは多くの時間をとったりされていました。もっとも印象に残ったのは、その方が交友されていたという予備学生として戦争に参加した方との話。予備学生の方は「日本が戦争に負けることはわかっていた。ただ自分たちが死ぬことでより早く戦争が終わるのであればそれでいいじゃないか」と考えていたとのこと。そして「(死んだときの)唯一の心残りは親孝行ができなかったこと」と... 予備学生の皆が皆同じ考えだったわけではないでしょう。しかし、こういった考えを持って戦っていた者がいたことを多くの人に広く知って欲しい、知る必要があるのではないかと感じます。
おまけ:レストラン江田島のの海軍カレー(エビカレー)
見学をしたときに食べておきたい(?)のがレストラン江田島の海軍カレー。
通常のカレーとカツカレー、エビカレーがあるのですが、私はエビカレーがお気に入り(^-^)。「おおぉ」と驚くような美味しさがあるわけではないのですが、ちょっと「おっ」と美味しく食べることができるカレーです(意味がわからん(^^;)。カレーに興味をもたれた方、ぜひ見学してカレーを食べてみて下さい(^-^)。
参考にした書籍など
このページの公開日:2013.01.20 / 追記日:2013.01.21